1、成年後見制度とは
能や狂言・歌舞伎では演技者の後ろに控え、道具などを渡し、衣装を整えたりして、その世話をする人のことを後見人といいます。
認知症につけこまれ、リフォーム被害にあった等の新聞報道をよく目にするところです。
「ここを補強して、このようにリフォームする必要があります。その場合○○円になります」「それでは、お願いします」
「わかりまりした」・・・・・。
このように当事者が合意して契約が成立します。ところが、認知症などになると、契約の是非が判断できなくなります。そして、それにつけ込まれて継続的な被害をうけてしまうのです。
このような方に、「後ろ盾となって陰で支える」人が契約の是非を判断してあげられれば、そうそう、悪質業者も近寄ってきません。契約を前提とする会社では、このような役割を担う人がどうしても必要になります。
民法という法律が、明治時代に制定された時から、「後ろ盾となって陰で支える」仕組みが用意されていて、(準)禁治産制度と呼ばれていました。しかし、この制度は、使いにくく殆ど利用されることはありませんでした。ところが、日本社会の急速な高齢化や、介護保険制度の導入など、社会制度の変化にともない「使いにくいから使わない」でづまない状況になってきました。
そこで、これまでの(準)禁治産制度を見直し、2000年4月1日、新たな時代の要請に応え、新しい理念を導入して作られた制度が、成年後見制度と呼ばれるものです。
そして、成年後見制度では、「後ろ盾となって陰で支える人」を後見人といい「支えられる人」を本人といいます。
2、成年後見制度の理念
この成年後見制度のは、次の3つの理念によって支えられています。
①ノーマライゼーション
ノーマライゼーションとは、ノーマルな生活をするという意味です。
認知症の高齢者・障がい者だからといって特別扱いをしないで、今までと同じような生活をさせようとする考え方です。
後見人は、本人のどの部分を補って支援したら、それが実現できるのかを考えて支援しなくてはなりません。
②自己決定の尊重
本人の自己決定を尊重しようという考え方です。ただ、後見人は、本人のいいなりになるという意味ではありません。普通の生活や、本人のこれまでの生活歴、環境、そして本人の言葉、そして本人の保護の立場、これらを総合的に判断して自己決定を見極める必要があり、後見人の知識や経験、資質の問われる難しい理念です。
この「自己決定の尊重」には「将来に備える」という意味があります。今日は十分な能力があっても、明日はわかりません。若い方でも交通事故に遭うかもしれません。
その時のために、今から備えておこうという考え方でもあります。
③現有能力の活用
判断能力が不十分であるといっても、ゼロになっている訳ではありません。本人が今もっている能力を最大限引き出し、活用するべきという考え方です。
これらの3つの理念からもわかるように、後見人は単に本人の財産を守れば良いという仕組みではありません。むしろ、積極的に使うこともでてくるでしょう。
成年後見制度は、判断能力が不十分になったとしても、財産侵害を受けたり、尊厳が損なわれたりすることなく、本人が、自分の人生を主人公のままで、安心して生活できるように支援する仕組みです。
3、成年後見制度を利用できる人
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を支援する仕組みですから、身体の障害で生活に支障が生じていても、それだけの理由でこの制度は利用できません。
次のような方が利用できます。
①加齢による脳の老化による場合(認知症等)
加齢により、認知症になる確率が高まります。高齢社会の日本では、人ごとではありません。
②生まれながら脳に何らかの障害がある、あるいは子供のころの病気等で脳に何らかの障害を受けた場合(知的障害者)
知的障害の問題としては、親なきあと問題といわれるものがあります。新しい成年後見制度の理念のもと、この問題に対する取り組みも可能になりました。
③脳梗塞・交通事故・手術等で脳に損傷を受けた場合(高次脳機能障害)
これらをきっかけに物忘れや記憶障害が起きたり、場合によっては寝たきり状態になることもあります。
④社会的ストレス等から精神が不安定になった場合(統合失調症)
ストレスの多い現代社会においては誰にでもおこりうるものです。
4、成年後見制度の種類
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を支援する仕組みですが、元気なときから将来に備えておきたいという要請にも対応することができます。
○前者の仕組み
すでに判断能力が不十分になってしまっている方を支援する仕組みは「法定後見制度」と呼ばれています。「法廷後見制度」では、判断能力の状態をもとに、本人を保護する必要性の高い順で「後見類型」「保佐類型「補助類型」と3類型に分類し、それぞれの後見人は「成年後見人」「保佐人」「補助人」と呼ばれています。
○後者の仕組み
将来に備えておく仕組みを「任意後見制度」といいます。これは、文字通り本人が「任意」に「契約」して将来に備える仕組みです。
「契約」した段階では、後見人(予定者)のことを「任意後見受任者」と呼びます。将来、本人が認知症等になり、後見人が仕事を始めるようになると「(契約)が発行した」などといい、後見人は「任意後見人」と呼ばれます。
なお、「(契約)が発効」するためには、家庭裁判所により「任意後見監督人」が選任されなければなりません。
法定後見制度 | 後見類型 | 成年後見人 |
保佐類型 | 保佐人 | |
補助類型 | 補助人 | |
任意後見制度 | (契約の締結段階)任意後見受任者 | |
(契約が発効した後)任意後見人 |
任意後見制度
1、将来の心配事
「将来、認知症になったっらどうしよう?」と心配しても、法定成年後見制度をあらかじめ利用しておくことは出来ません。
その場合、例えば、Aさんが、親戚Bに「認知症になったらお願いね」と頼んだとします。
数年後、Aさんは認知症の症状が現れ始めました。
そしてこの頼んだことにより問題がいくつか上がってきます。
1つ目に、財産の引継ぎがうまくできない。
これは、Aさんが、病気を発症する前には、財産を引き渡すといっていたとしても、病気の進行で、そのことを覚えてないことがあります。
2つ目は、親戚Bさんの不正です。財産侵害が発覚するのは氷山の一角と言われています。
3つ目は、お願いしたことを親戚Bがやってくれない。
不正まで至らなくても、こういう場合もあるでしょう。
このように「将来の不安に備えるこ」ことは、そう簡単にできることではなく。「将来の不安に備える」ための法律もありませんでした。
2000年4月に施行された成年後見制度は、これらの問題点を解決し将来の不安に備える仕組みを用意しました。それが任意後見制度です。
ただ、任意後見制度は、
①判断能力が不十分な状態になった後に支援する仕組みです。
②どちらかが死亡すると契約が終了します。
つまり、先ほどの、Aさんの「認知症になったらどうしよう?」の不安にしか応えることができません。
「万一入院したら入院費の支払いなど誰に頼めばいいのか?」、「死んだ後のことはどうなるの?」には対応できないのです。
法定後見制度でも、欠点が指摘され、任意後見制度ができ、またこの任意後見制度でも、欠点があり、任意後見制度を中心に、「代理」「遺言」「死後の事務委任」制度を利用する方法が提案されています。
1⃣任意後見契約
将来、判断能力が不十分な状態になった時の不安に備える仕組みです。判断能力が不十分な状態になったあとの生活、療養看護、財産管理に関する事務について、あらかじめ代理権を付与する契約です。同意権・取消権を与えることは出来ません。
⑴財産を引き継ぎできない場合などは、契約を公正証書で作成しなければならないものとしました。公証人という法律家が関与し、何をどのように行うかを具体的に決めて契約を結ぶことになります。
その内容は、東京法務局に登記され、必要があればその証明書を発行してもらうことができますから、本人との間で契約があったことが証明できます。
⑵不正を行う可能性について、支援の内容や支援する人を、本人が選び、自由に決めることができますが、契約の効力は、判断能力が不十分な状態になるまで生じません。任意後見人を監督する人(任意後見監督人)が、家庭裁判所で選任さてから支援が始まります。本人に代わって、任意後見監督人が任意後見人の不正を監督してくれるので安心です。
⑶任意後見人がお願いしたことをしてくれない場合、任意後見制度は、公的監督機関が関わる権利擁護制度と位置づけらているので、任意後見人は、親戚や知人の中で処理するしか方法がないということはありません。
任意後見契約について
任意後見契約には「即効型」「移行型」「将来型」の3つのパターンがあります。
○即効型:すでに判断能力に不安があるので、今すぐに任意後見人の支援を受けたい場合に利用します。任意後見契約をそてすぐに、家庭裁判所に任意子後見監督人の選任申立てをします。
○移行型:判断能力は不安がないが、今すぐに支援を受けたい場合に利用します。任意後見契約と同時に任意代理契約をします。
○将来型:判能力には不安がなく、将来のためにだけ準備をしておこうとする場合に利用します。任意後見契約のみをします。
2⃣任意代理契約・見守り契約
判断能力がしっかりしていても、難しい法律のことなどを手伝ってもれい、失敗しないようにしたいときに利用したい仕組みです。
任意後見契約と似た名前です。「後見」と「代理」の部分のみ違います。
この任意代理契約はいわゆる代理契約なのですが、「任意後見契約の効力が生じたら、代理権が消滅する」「生活をサポートする」という規定をもうけるなどの成年後見制度の趣旨を活かし、任意後見契約の付随的なものとして契約をする場合を、単なる「代理」と区別する意味でこのように呼ぶことにしています。
任意後見契約のように公正証書で契約書を作成する必要がありませんが、契約内容を明確にするためにも公正証書でおこなうことを勧めます。
任意代理契約は、任意後見契約でいう、任意後見監督人がいません。ですので、任意後見制度への移行時に、権利侵害が起こる可能性があります。この部分は欠点になります。
3⃣死後の事務委任契約
死後の心配にお応えする仕組みです。
任意後見契約も、任意代理契約も本人の死亡で終了します。その後、病院への清算や葬儀等、生きていた間の出来事の清算事務や死亡に関連した事務が必要ですが、これは、任意後見契約や任意代理契約の対象外です。これも必要な場合は、「死後の事務の委任契約」も結ぶ必要があります。
4⃣遺言
死後の心配に応えるもう1つの仕組みです。死後の事務委任をしたとしても、生前の生活の清算事務及び死亡に関連した限定的な事務を依頼できるにすぎません。残った財産を、誰にあがたいかなどの自分の望みをかなえるには、遺言を利用します。
遺言なしの場合は、遺産は相続人全員で話し合いにより決定されます。