契約書
契約書作成の基本的知識
⑴契約書を作成する利点と留意点
①契約書を作成する主な利点
⑴契約事項の証明の容易性(後日の紛争の防止)
契約書を作成する一番の利点は、契約事項の明確化により、後日の紛争を防止できということです。
契約内容について問題が生じた場合、契約の条項が有力な証拠となります。
例えば、売買契約において、代金の額、支払い時期、目的物の所有権移転時期、契約の解除事由などは、これらの契約事項を定めることにより、その内容が明確となり、後日紛争が生じることを防ぐことができます。
この観点から、契約条項で、例えば、「著しく信頼を裏切ったときは、本契約を解除できる。」などのように、解釈の余地を残すような曖昧な表現は、できるだけ避けるべきです。
⑵当時者の死亡時等における契約履行の円滑化
例えば、契約当事者が死亡した場合、あるいは会社において契約担当者が退社や転勤したような場合などに、契約書が存在すれば、相続人や後任者が速やかに契約事項を把握し、相手方当事者と適切な対応をとることができ、契約の履行を円滑にすることができます。
②契約書を作成する際の留意点
⑴一定の契約の要式性
借地借家法上の一般定期借地権設定契約(22条)、事業用借地権設定契約(23条)及び定期建物賃貸借契約(38条1項)等は、書面によることを要します。(特に、事業用借地権設定契約は、公正証書によることを要する。)
また、建設工事の請負契約の締結するときは、工事内容、請負代金等の所定の事項を記載した書面によることを要します。(建設業法19条)
さらに、保証契約は、連帯保証契約や根保証契約に限らず、普通の保証契約においたも書面によらなけらば無効となります。(民法446条2項)これは、保証契約が無償で個人的な情義に基づいて行われることが多いという特性から、保証を慎重にさせようとするため、要式行為とされたものです。
なお、電子商取引等による保証契約、すなわち保証契約がその内容を記録した電磁記録によってされた場合も、これを書面によってされたものとみなしています。(同条3項)
⑵契約事項が強行規定や公序良俗に反しないこと
契約の内容については、原則として当事者が自由に定めることができます。これを「契約自由の原則」といいます。しかし他方、強行規定に反することはできません。例えば、借地借家法の契約期間や契約更新等の規定は、原則として強行規定です。(借地借家法9条、16条、21条、30条など)
また、契約の内容が「公の秩序又は善良な風俗に反する」場合には、無効となります。(民法90条)例えば、賃借人が賃借建物の明け渡しをしない場合に、いわゆる自力執行(自力救済)はできませんので、「賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃借人が現状に回復して明け渡す義務を履行しない場合には、賃貸人は、賃借人は、賃借人の費用負担で賃借人の搬入物件を搬出して賃貸人の保管の下に置くことができる。」というような条項は、公序良俗の反して無効となります(東京高判平成3.1.29)
⑶契約書中の金額の記載
契約書中の金額の記載は、後日の改ざんを防ぐため、「壱、弐、参」などの漢数字を用いるのが安全といえますが、最近では、一般にパソコンで契約書を作るため、改ざんが容易でなく「1.2.3」などのアラビア数字を用いる場合も多いようです。
なお、最近は、公証役場では、公正証書を作成する際、アラビア数字を用いている役場が多いようです。
⑷相手方当事者に契約締結権限があるかの確認
契約を締結する場合、相手方に契約締結権限があるかどうかが問題となります。
①会社の場合
会社の場合には、一般に、相手方に会社の代表権限(株式会社の場合は代表取締役)がるかどうかを確認する必要があります。重要な取引の場合や公正証書にする場合には、会社の登記事項証明書及び代表者の印鑑証明書の取り寄せ(いずれも法務局で交付される。)並びに代表印によって確認することになります。ただし、会社の支配人は、その関係している営業について、一切の裁判上、裁判外の代理権がありますし(商法21条1項)、また、営業部長、経理部長等も会社の内規によって会社を代理する権限がある場合があります。しかし、不動産等の重要な取引においては、会社の代表権限を有する者と締結すべきものと思われます。
②個人の場合
個人が当事者の場合でも、本人確認をする必要がありますが、特に重要な取引の場合には、印鑑証明書と実印によって確認するべきでしょう。
③代理権限の証明(委任状)
例えば、不動産の売買を他人に委任する場合には、委任状によって売買契約の代理権限を他人に与えたことを明確にする必要があります。この場合、委任事項を空欄にした白紙委任状を代理人にあたえることは、これを濫用されるおそれがあるので、絶対に避けるべきです。委任事項の内容を明確にし、かつ当該委任の有効期間を定めた委任状を交付すべきです。
なお、公正証書作成の委任状の場合には、一般に、契約事項を明確にするため、契約書のコピーを委任状に添付する形をとっています。
⑵契約書の仕組み
⑴契約書の基本構成
契約書は、一般に①標題②前文③契約条項④後文⑤作成年月日⑥当事者(代理人)の署名(記名)・押印から成ります。
なお、前文は必ずしも必要ではありませんが、どのような契約であるか、すなわち契約の趣旨・目的が一目で分かるようにするために、記載される場合多いようです。契約の内容が複雑でないような場合には、前文は必ずしも書く必要はないと思われます。
⑵契約書の「原本」「正本」「謄本」「副本」の意味の違い
契約書の後文に「上記契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、各自署名押印のうえ、各1通を保有する。」という文言が置かれるのは通例です。一般に、契約当事者の数だけ契約書を作成し、各当事者が1通ずつ契約書を所持します。
このように当事者の数だけ契約書を作成するのは、当事者が契約書を改ざんするのを防止し、また、その紛失の危険を防いだり、さらに、一方当事者に債務不履行があった場合に、他方当事者が訴訟提起等の法的手段をとるための契約の成立・内容の立証に役立つからです。
一般に、契約書の「原本」とは、当事者各自が契約書に署名押印したオリジナルものを、「謄本」はそのコピーを、「正本」は、謄本のうち原本と同じ効力が認められたものをいいます。
ただ、通常、契約書を複数作成した場合、1通を「正本」といい、各自が署名(記名)押印しているわけですから、上記の「原本」に当たり、法的効力に差はないことになります。そして、いずれの契約書にも、収入印紙を貼る必要があります。
⑶印の種類と契約書の押印の種類
⑴実印と認印
印には実印と認印がります。実印は、個人の場合は市町村役場に登録されている印、会社の場合は本店所在地の法務局(支局又は出張所)に登録されている印のことをいいます。認印は、実印以外の印のことをいいます。
実印は、公的期間に登録されている印ですので、一般に、文書作成者の特定いう点では認印より証明力が高いといえますが、認印の場合でも、文書作成者自ら押印したことを証明できれば、問題がありません。
実印の場合でも、例えば、息子が無断で親や兄弟の実印及び印鑑登録カードを持ち出して、押印するというケースもないとは限りませんので、結局証明力の程度の差にすぎないことになります。
しかし、実印の方が証明力が高いことは事実ですで、重要な契約書は実印ですべきでしょう。
⑵契約書の押印の種類
契約書作成の際に押印することになりますが、押印には以下のように多くの種類がああります。
①署名又は記名と共にする押印
契約当事者が契約書末尾の当事者各自の署名又は記名の次にする押印であり、これにより契約書の取り交わしが終了します。
この押印は、契約書作成が本人に間違いないことを特定する意味があります。
②契印
契印は、契約書が複数枚にわたる場合に、そのとじ目に押される印のことで、契約当事者全員が押印することが通例ですが、契約当事者双方の代表者が契印をすることでもよいとされています。
契印は、冊子状の契約書の一部の差し替えを防止するためにするものです。
契印の方法には、いわゆる「袋とじ」と「ホッチキス止め」とがあります。「袋とじ」は正本テープで貼り付けて行う方法で正本テープとの境目に契印をすればよいです。(表紙、裏表紙ともに契印すべき。)これに対して、ホッチキス止めは、単にホッチキスで止める方法で、各項のつなぎ目に契印をします。
③割印
割印とは、複数の独立した文書(契約書)について、これらの文書が同一であることや関連性があることを証明するために、2つの文書にまたいで押す印のことをいいます。
④捨印
捨印とは、契約書作成後における加筆や訂正に備えて、あらかじめ契約書の上欄余白部に、契約当事者全員が押す印のことをいいます。
捨印は、後日契約書を容易に改ざんされる危険性がるので、相手方に求められても、なるべくこれを拒否すべきです。
⑤消印
消印とは、契約書に収入印紙の貼付が必要な場合に、その貼付された印紙と契約書面にまたいで押す印のことをいいます。
⑥訂正印
訂正印とは、契約書の文字を訂正する際に、その訂正内容を証明するために当事者全員が押す印のことをいいます。
訂正印の押し方としては、まず訂正箇所に二重線を引き、横書きの場合は上又は下に、縦書きの場合は右又は左に訂正後の字句を書き入れ、欄外に「○じ削除 ○字加入」のように訂正内容を書き入れた上で、その脇に当事者全員で押印するのが通例です。なお、訂正箇所(二重線の上)に押印する形式もあります。